企業結合・事業分離ラボ【設例・取得編】|先生と一緒に図で学ぶ設例・基礎1〜6、応用1〜3 のれん・段階取得・条件付取得対価・暫定的な会計処理
無料の学習ツール「企業結合・事業分離ラボ」の読み方ガイドです。ラボの設例タブから、取得の設例(設例・基礎1〜6、応用1〜3)を1つずつ、先生と生徒の会話形式で見ていきます。登場する会社・株価・設例の数値はすべて架空の例です(適用指針の設例の数値は使っていません)。解説は公認会計士・税理士が監修しています。各行の図はラボの図そのものです。重要な節の最後には、ラボで30秒だけ手を動かす小さな実習を置いています。
📘 設例・基礎1 ラボの画面
前提条件(独自の数値・設定)
- P社は3月31日にS社を吸収合併し、P社が取得企業とされた(取得)。
- 対価:P社株式 20株を交付。企業結合日の株価は1株 50。
- S社の受入資産・負債(簿価→時価):諸資産 700→760、土地 200→300、顧客関連の無形資産(S社の帳簿にない)時価 120、負債 400(時価同額)。
- のれんは10年で定額法償却。税効果は考慮しない。
📎 実務で確認する資料- 合併契約書(合併比率・効力発生日)
- 企業結合日の株価(終値)
- 識別可能資産・負債の時価評価資料(不動産鑑定・無形資産評価報告書)
はじめに
設例・基礎1〜6、応用1〜3 ── 取得原価を決めて、配分して、のれんを出す
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎1 ステップ1
ハルカ
先生、設例・取得編ですね。基礎1はP社がS社を合併して、株式20株を渡す基本の形です。
先生
取得の設例は、全部「取得原価をいくらにするか」「何に配分するか」「残りののれんをどうするか」の3つのどこかをひねったものなんだ。
ハルカ
段階取得、条件付取得対価、負ののれん、暫定的な会計処理、自己株式の処分、ヘッジ会計。ひねりの種類が多いですね。
先生
どれが3つのうちどこをひねっているかを意識すると、迷わないよ。順に見ていこうか。
設例・基礎タブの基礎1を開きながら読むと分かりやすいですラボで開く ▶
📘 設例・基礎1 ラボの画面
🧾 企業結合日(P社の個別財務諸表)
企業結合日(取得企業の個別財務諸表)| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| 諸資産 | 760 | 負債 | 400 |
| 土地 | 300 | 払込資本(資本金等) | 1,000 |
| 無形資産(顧客関連) | 120 | | |
| のれん | 220 | | |
🧾 X2年3月期
決算| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| のれん償却(販売費及び一般管理費) | 22 | のれん | 22 |
設例・基礎1
基本の取得 ── のれん 220 と毎年の償却 22
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎1 ステップ4・5
ハルカ
取得原価 1,000 から、諸資産 760、土地 300、無形資産 120、負債 400 を差し引いて、のれん 220。仕訳の右側は払込資本 1,000 です。
先生
S社の簿価の純額 500 と時価の純額 780 の差 280 は、合併で初めてP社の帳簿に載るんだ。のれんは翌年度から10年で 22 ずつ、販売費及び一般管理費で償却するよ。
迷いポイント 払込資本 1,000 は、全部資本金にする?
ハルカ
株式を発行したのだから、1,000 がまるごと資本金になるのだと思っていました。
先生
内訳は会社法の定めで決めるんだ。資本金・資本準備金・その他資本剰余金に分けられるよ(適用指針第79項)。会計が決めるのは、増える払込資本の合計の方なんだ。
💡 そうだったのか!
取得原価 1,000 を時価の純額 780 に配分し、
残りの 220 がのれん。払込資本の内訳は会社法の定めで決めます。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーション「取得原価の配分とのれん」で、プリセット「無形資産を識別しない」を選ぶ
👀 のれんは 340、毎年の償却は 34 に。無形資産を識別した基礎1(のれん 220・償却 22)より、のれんが大きくなります。
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📘 設例・基礎2/応用1 ラボの画面
🧾 連結修正仕訳
連結修正仕訳(保有株式を企業結合日の時価に)| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| のれん | 30 | 段階取得に係る差益 | 30 |
🧾 連結修正仕訳
連結修正:持分法評価額と時価の差=段階取得に係る差益| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| のれん | 90 | 段階取得に係る差益 | 90 |
連結修正:個別の帳簿価額と持分法評価額の差ものれんの修正| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| のれん | 30 | 関連会社株式 | 30 |
設例・基礎2・応用1
段階取得 ── その他有価証券なら帳簿価額、関連会社なら持分法評価額との差
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎2 ステップ3/設例・応用タブ 応用1 ステップ3
ハルカ
基礎2は、10%持っていたB社を合併します。帳簿価額 60 の株式が企業結合日には時価 90 なので、連結だけで段階取得に係る差益 30 が出ます。
先生
そのとおりだよ。応用1は、30%持っていた持分法適用関連会社を合併する形なんだ。連結ではもう持分法評価額 180 で持っているので、差益の起点がそこになるよ。
迷いポイント 関連会社だった場合も、差益は個別の帳簿価額との差?
ハルカ
時価 270 と個別の帳簿価額 150 の差の 120 が差益だと思っていました。
先生
連結では、持分法で積み上げた 30 はもう利益剰余金に入っているんだ。だから差益は時価 270 − 持分法評価額 180 = 90。残りの 30 は、のれんの修正になるよ(適用指針第46-2項)。
ハルカ
同じ 30 を二度喜ぼうとしていました。持分法の取得後剰余金は、もうお祝いが済んでいたんですね。
先生
一度お祝いした利益は、連結では二度は数えないんだよ。
💡 そうだったのか!
段階取得の差益は、その他有価証券なら
時価 − 帳簿価額、持分法適用関連会社なら
時価 − 持分法評価額。持分法で取り込み済みの分は差益になりません。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーション「段階取得」で、プリセット「持分法適用関連会社 → 合併(応用1)」を選ぶ
👀 個別ののれん 70、連結ののれん 190、段階取得に係る差益 90(時価 270 − 持分法評価額 180)。
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📘 設例・基礎3/応用2 ラボの画面
🧾 X3年3月31日(連結財務諸表)
追加交付が確実になった期(連結財務諸表)| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| のれん | 72 | 未払金(株式交付時に払込資本へ) | 80 |
| のれん償却(過年度分) | 8 | | |
未払金は株式を発行したときに払込資本へ振り替える。
🧾 追加交付時
追加交付が確実になった時点:既発行分を時価に修正し、追加分を時価で認識(取得原価は動かない)| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| 社債ディスカウント | 600 | 社債(額面・追加 6口) | 600 |
設例・基礎3・応用2
条件付取得対価 ── 業績条件はのれんが動き、株価条件は動かない
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎3 ステップ2/設例・応用タブ 応用2 ステップ4
ハルカ
基礎3は、B社の業績が条件を超えたら株式 80 を追加交付する契約です。確実になった期に、のれん 72 と過年度の償却 8 を計上しています。
先生
追加したのれんは企業結合日に計上していたと仮定して、すでに過ぎた1年分の償却 8 はその期の損益にするんだ(適用指針第47項(1))。
迷いポイント 応用2のように、社債の価格が下がって追加で社債を渡す場合も、のれんを増やす?
ハルカ
追加で 600 も社債を渡すのだから、取得原価もその分増えると思っていました。
先生
社債の時価が下がった分を埋め合わせるだけなので、対価の総額は 900 のままなんだ。取得原価ものれんも動かさず、社債のディスカウント 600 が増えるだけだよ(企結第27項(2))。
💡 そうだったのか!
業績に依存する条件付取得対価は
のれんを追加・減額します。株式や社債の市場価格に依存する条件は
対価の総額が変わらないので、取得原価ものれんも動きません。
📘 設例・基礎4 ラボの画面
🧾 企業結合日(A社の個別財務諸表)
負ののれんが生じない範囲で土地に配分(第55項)| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| 売掛金 | 250 | 負債 | 350 |
| 棚卸資産 | 150 | 払込資本 | 600 |
| 土地 | 550 | | |
設例・基礎4
時価が一義的に定まりにくい土地 ── 負ののれんが出ない範囲で 550 を配分
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎4 ステップ3
ハルカ
郊外の大規模工場用地を鑑定評価額 1,180 で受け入れると、負ののれんが 630 も出ます。それで土地を 550 にしています。
先生
大規模工場用地のように時価が一義的に定まりにくい資産は、負ののれんが出ない範囲で配分額を決められるんだ(適用指針第55項)。ただし、これは特例だよ。
迷いポイント 負ののれんが出そうなら、どんな土地でも評価を下げてよい?
ハルカ
利益が急に出るのは困るので、土地の評価を下げて調整すればよいのだと思っていました。
先生
使えるのは、時価が一義的に定まりにくい資産で、鑑定評価額をそのまま使うと多額の負ののれんが出る場合に限られるんだ。交渉で合理的に算定した価額が対価に反映されていれば、その価額を使うよ。
ハルカ
土地の値段を、利益の都合で自由に値切れる魔法のボタンではないんですね。
先生
ボタンを押せる場面は、基準がはっきり限っているんだよ。
💡 そうだったのか!
第55項は
時価が一義的に定まりにくい資産だけの特例。負ののれんが見込まれたら、まず配分の見直しが先で、それでも残る分が発生した期の利益です。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーション「取得原価の配分とのれん」で、プリセット「安く買えた(負ののれん)」を選ぶ
👀 取得原価 600 に対して識別可能純資産 780、負ののれん 180 が発生年度の利益に。シミュレーションは第55項の特例を自動では使いません。
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📘 設例・基礎5 ラボの画面
🧾 X2年6月30日(確定時)
確定時(翌年度):土地を確定時価に、のれんを配分し直す| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| 土地 | 80 | のれん | 80 |
| のれん(償却の修正分) | 4 | 利益剰余金(前年度の償却の修正) | 4 |
| のれん償却(当年度3か月分) | 8 | のれん | 8 |
設例・基礎5
暫定的な会計処理 ── 確定したら企業結合日に戻って配分し直す
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎5 ステップ4
ハルカ
決算までに土地の時価が分からず、暫定の 350 で配分しました。翌年度に 430 と確定して、のれんは 400 から 320 に減っています。
先生
確定したら、企業結合日に配分が終わっていたかのように処理するんだ(適用指針第70項)。前年度の償却は本来 16 だったので、払いすぎた 4 を直すよ。
迷いポイント 前年度の償却の払いすぎ 4 は、当期の利益で戻す?
ハルカ
前の期の償却が多すぎたのだから、当期に戻し入れ益を出すのだと思っていました。
先生
当期の損益にはしないんだ。前年度の償却の修正なので、利益剰余金で直すよ。企結(注6)により、並べて表示する前年度の財務諸表も確定後の数字に直すんだ。
💡 そうだったのか!
暫定処理の確定は
企業結合日に遡って配分し直します。前年度の償却の修正は利益剰余金で、当期の損益にはしません。
📘 設例・基礎6 ラボの画面
🧾 企業結合日(A社の個別財務諸表)
企業結合日(個別)| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| 諸資産 | 300 | 自己株式(帳簿価額) | 110 |
| 有価証券(時価) | 190 | 資本金 | 300 |
| のれん | 150 | 資本準備金 | 100 |
| | その他資本剰余金 | 130 |
設例・基礎6
新株と自己株式の併用 ── 払込資本は 640 − 自己株式 110 = 530
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎6 ステップ3
ハルカ
80株のうち20株は自己株式を処分して、60株は新株です。取得原価は 640 で、払込資本は 530 になっています。
先生
取得原価は、自己株式の分も新株と同じく企業結合日の時価で入るんだ。払込資本の増加は、対価の額から処分した自己株式の帳簿価額を引いた額だよ(適用指針第80項)。
迷いポイント 自己株式を処分したら、自己株式処分差益が出る?
ハルカ
帳簿価額 110 の自己株式が時価 160 で使われたので、差の 50 は処分差益だと思っていました。
先生
企業結合の対価に使った自己株式は、処分差額を出さないんだ。対価 640 と帳簿価額 110 の差を、そのまま払込資本の増加 530 にするよ。
ハルカ
自己株式は倉庫から出してきた在庫なのに、渡すときは新品と同じ値段で数えるんですね。
先生
取得原価は新品と同じ時価で、払込資本は倉庫の帳簿価額を引く、ということだよ。
💡 そうだったのか!
合併の対価に自己株式を使ったときは、処分差額を出さず
対価の額 − 自己株式の帳簿価額を払込資本の増加にします。
📕 設例・応用3 ラボの画面
識別可能純資産 = 1,200 − 1,000 − スワップ 12 = 188 のれん = 448 − 188 = 260
🧾 企業結合日(A社の個別財務諸表)
企業結合日(取得企業)| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| 諸資産 | 1,200 | 金利スワップ(時価) | 12 |
| のれん | 260 | 借入金 | 1,000 |
| | 払込資本 | 448 |
受け入れた金融資産・負債(デリバティブを含む)は金融商品会計基準の時価で配分する。被取得企業で繰延ヘッジ損益が計上されていても、取得企業はそれを引き継げない(適用指針第68項)。
適用指針第68項企結第28項
🧾 企業結合日(ヘッジ指定)
ヘッジ指定時:デリバティブの時価を前受利息に振替| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| 金利スワップ | 12 | 前受利息 | 12 |
設例・応用3
ヘッジ会計を使っていた相手を取得 ── 繰延ヘッジ損益は引き継がない
📍 ラボの場所:設例・応用タブ 応用3 ステップ2・3
ハルカ
B社は金利スワップに繰延ヘッジを使っていて、繰延ヘッジ損益が △12 ありました。でも仕訳には出てきません。
先生
取得では、デリバティブも含めて企業結合日の時価で受け入れるんだ。だから繰延ヘッジ損益は引き継げないよ(適用指針第68項)。ヘッジを続けるなら、A社が改めてヘッジ指定するんだ。
迷いポイント ヘッジ指定したら、スワップの時価 12 はどこへ行く?
ハルカ
スワップは負債のまま残って、時価が動くたびに繰延ヘッジ損益になるのだと思っていました。
先生
キャッシュ・フローを固定するヘッジにするときは、企業結合日のスワップの時価を前受利息に振り替えるんだ。それを借入の残り2年で 6 ずつ受取利息に戻していくよ。
💡 そうだったのか!
取得では被取得企業の
繰延ヘッジ損益は消え、ヘッジは取得企業が指定し直します。企業結合日のデリバティブの時価は、前受利息を通じて期間配分されます。
今日の内容を、ラボで確かめてみませんか?
この記事の図は、すべて企業結合・事業分離ラボの画面そのものです。設例タブを開けば、同じ図を見ながら、ステップを1つずつ読み返せます。
企業結合・事業分離ラボを開く ▶今日のまとめ ── 設例ごとの結論
おわりに
今日のふりかえり
先生
今日のまとめだよ。取得の設例は取得原価・配分・のれんの3つのどこかをひねったもの。段階取得と条件付取得対価は取得原価、土地の特例とヘッジは配分、暫定処理は配分とのれんの両方。どれも企業結合日の時価が基準なんだ。
ハルカ
基礎編で「残りがのれん」と覚えたので、どの設例も「何が残りに入ったか」を探す練習になりました。前は仕訳の右と左を合わせることばかり気にしていたのに、今日は判断の方を追えた気がします。
先生
判断を追えるようになると、数字が違う設例でも同じ形に見えてくるよ。
ハルカ
次に「のれん」と聞いたら、まず「何が入りそびれたんですか」と聞いてしまいそうです。
先生
それは監査人もよく聞く質問なんだよ。次の逆取得・株式交換・株式移転編では、法律上の形と取得企業がねじれる設例を見ていこうか。
参考資料
企業結合会計基準 第23〜33項・(注6)、適用指針第46〜80項・設例4〜9。企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(2019年1月16日最終改正・2026年1月9日までの修正反映)、企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」(2013年9月13日最終改正)、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(2024年9月13日最終改正・2026年10月16日までの修正反映)、企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」。基準確認日:2026年10月26日。ラボの設例は、適用指針の設例と同じパターンを独自の数値で組み立てたものです(原典の設例の数値は画面に出していません)。
このシリーズの記事:基礎編/応用編/設例・逆取得・株式交換・株式移転編(基礎10・11、応用4〜6)/設例・事業分離編(基礎7〜9、応用7〜12)/設例・共同支配企業と合併編(基礎12、応用13〜17)/設例・会社分割・株式交換編(基礎13、応用18〜24)/設例・子会社同士の合併と株主編(基礎14、応用25〜30)/設例・税効果編(応用31〜35)/税務調整編
この記事を書いた人
TaxJudge編集部|公認会計士・税理士(実務25年)による企画・監修。会計基準・税法・裁決・有価証券報告書などの一次情報をもとに、検索できるデータベースと計算・判定・文書作成ツールを制作しています。