MENU

経理財務部の物語 第17話(10月25日)|見るのは、二人分

経理財務部の物語 第17話(10月25日)|見るのは、二人分
経理財務部の物語第17話2026年10月25日(日)・駅裏の喫茶店・川沿いの公園・部長の部屋次:第18話(近日)
この話の中心大野部長登場大野部長・喫茶店のマスター(部長が若い頃から通う店)前の話第16話(10月24日)|端数と呼んでいた数字
舞台の会社について(開く)
架空の製造小売。グロース上場・3月決算・子会社3社。店舗68・賃貸借契約80件・経理財務部8人。来期(2028年3月期)から新リース会計基準が強制適用になる。年表・会社のいま・話数一覧は 経理財務部の記録 に。会計の知識は各話の末尾「この話に出てきた知識」からラボと学習ノートへ。
PART 1物語
1

日曜の朝三つ目の逃げ道

逃げ道は、三つ10月25日、日曜の朝。先週の詰将棋には、三つ目の逃げ道があった。

2026年10月25日、日曜。
朝8時半。
駅裏の喫茶店の、カウンターの端の席。

先週の日曜も、部長はこの席にいた。
あの日、日曜は書かないはずの手帳に、「調」の列の理由を十三行書いた。

日曜:手帳に仕事は書かない(先週は、一度だけ破った)
マスター
おはよう、大野くん。
先週より、少し遅いね。
大野部長
おはようございます。
昨日も会社に出ていたので、少し寝坊しました。
マスター
先週は「明日から忙しくなる」って言ってたね。
忙しかったかい。
大野部長
忙しかったです。
……思っていたのとは、違う忙しさでしたけど。
マスター
ほう。

マスターはそれ以上聞かず、カウンターの下から将棋盤を出した。先週、二人で解けなかった詰将棋が、そのまま並べてあった。

大野部長
これ、残しておいてくれたんですね。
マスター
大野くんが「金を打つ」まで言って、
その次で止まった形だよ。
大野部長
相手が逃げる先を、全部見ないといけない、
ってところでしたね。

部長は盤をしばらく見て、玉が逃げる先を、指で一つずつ押さえた。三つあった。先週は、二つしか見ていなかった。

大野部長
……三つ目が、ありました。
ここに逃げられたら、詰まない。
マスター
そう。
それが見えたなら、半分は解けてる。
大野部長
心の声
先週は、二つしか見ていなかった。
今週、ハルカさんの横で開いた表からも、
私が見ていなかった行が二つ出てきた。
850と620。
マスター
一人で考えてたら、三つ目は出なかったかい。
大野部長
出なかったと思います。
……先週、マスターに言われたとおりでした。
一人で指していると、読みたい手しか読まない。
マスター
わたしの言葉じゃないよ。
昔、ここの常連に言われたんだ。
大野部長
どなたですか。
マスター
開店した年の常連さん。
毎朝、大野くんが今座ってる席にいた。
どこかの会社の経理の偉い人だったよ。
大野部長
この席、そういう席だったんですね。
マスター
そう。
決めるのは早くて、決めたあと長い人が座る席。
大野部長
心の声
……それは、私のことを言っている。
2

娘の焙煎見るのは、二人分

焙煎機(日曜の朝は、娘さんの番)焼くのは一人分減って、見るのは二人分「任せた最初の年は、楽にならなかった」
9時半。店の奥の焙煎機から、豆のはぜる音がした。マスターの娘さんが、焙煎をしていた。
大野部長
今日は、お嬢さんが焼いているんですね。
マスター
日曜の朝は、あの子の番。
わたしは、焼き上がりを一杯ずつ飲むだけ。
大野部長
一杯ずつ、ですか。
マスター
任せた最初の年は、毎回飲んでた。
焼くのは一人分減ったけど、見るのは二人分になったんだよ。
大野部長
心の声
焼くのは一人分減って、見るのは二人分。
大野部長
……楽には、ならなかったんですか。
マスター
最初の一年は、ならなかったね。
むしろ前より疲れた。
自分で焼いたほうが早い日も、何度もあった。
大野部長
それでも、焼き直さなかった。
マスター
焼き直したら、また一人に戻るだけだからね。
代わりに、飲んで、言った。
「今日のは少し浅い」って。

部長は、手元のカップを見た。今日の豆も、先週と同じように、少し苦かった。

大野部長
いつ頃から、楽になりました。
マスター
三年目かな。
毎回飲まなくてよくなったのは。
あの子が、浅いのに自分で気づくようになってからだ。
大野部長
心の声
三年目。
……私は、まだ一週目だ。
マスター
大野くん、今週は何を任せたんだい。
……いや、聞かないよ。
会社のことは聞かない約束だった。
大野部長
ありがとうございます。
……一つだけ言うと、任せた分、見るものが増えました。
マスター
それなら、ちゃんと任せてるよ。
見るものが増えないのは、任せたふりのときだけだ。
大野部長
来年の三十年は、何かされるんですか。
マスター
あの子が、記念のブレンドを作るって。
わたしは、名前を付けるだけ。
大野部長
名前だけ、ですか。
マスター
名前を付けると、みんなそれで分かった気になるからね。
中身は、あの子が決める。
大野部長
心の声
名前を付けると、分かった気になる。
……昨日の「端数」も、そうだった。

焙煎機の音が止まった。娘さんが小さな紙コップを二つ持ってきて、マスターと部長の前に置いた。

マスター
……今日のは、いいね。

娘さんは何も言わずに、焙煎機の前に戻った。部長には、それが少し嬉しそうに見えた。

3

川沿いの公園「黙って見てな」のあとで

「今の、銀じゃないの」「黙って見てな」午後2時。川沿いの公園の、縁台将棋。
午後2時。部長は、喫茶店から川沿いを歩いて、公園まで行った。月に一度の自社の店は、先週行った。今日は、自社の店には寄らないと決めていた。

ベンチの横の縁台で、年配の二人が将棋を指していた。片方の後ろに、若い人が立って見ていた。孫らしかった。

老人の手が止まるたびに、孫は口を開きかけて、閉じた。

大野部長
心の声
言いたいんだろうな。
いい手が見えている顔だ。

「今の、銀じゃないの」。とうとう孫が言った。老人は振り向かずに、「黙って見てな」と言った。

次の手で、老人は銀を打たなかった。三手後に、その一局は負けた。

大野部長
心の声
言えば勝てたかもしれない。
でも、言われて指した一局は、たぶんあの人の将棋じゃない。

駒を片づけながら、老人は孫に聞いた。「さっき、なんで銀だと思った」。孫は少し考えてから、盤の端を指で示した。

大野部長
心の声
「黙って見てな」で終わらせなかった。
負けたあとに、聞いている。
大野部長
心の声
火曜、ハルカさんの整理表の誤りを、
私は直さずに問いを一つ返した。
あれは、聞いた方だと思う。
大野部長
心の声
でも金曜、読み合わせが0件だったと聞くまで、
私はハルカさんの空いた席を見ていなかった。
大野部長
心の声
盤の上だけを見ていた。
誰がどこに座っているかを見るのは、指す人じゃなくて、
席を決める人の仕事だ。

部長は、ベンチから立ち上がった。川の上を、風が渡っていった。

帰り道、橋のたもとのたい焼きの屋台に、客が二人並んでいた。部長は列の後ろに並び、焼き上がりを待った。

大野部長
心の声
待つのは、嫌いではない。
待たせるのが、苦手なだけだ。

たい焼きは、尻尾まで餡が入っていた。部長は橋の上で、一つだけ食べた。

4

夕方の手帳手放したものと、増えたもの

頭の中の二つの列(手帳には書かない)手放したもの 3増えたもの 4夕方5時。手放したものと、増えたもの。
夕方5時。部屋に戻ると、部長は手帳を開いた。先週、十三行を書いたページの、次のページだった。
大野部長
心の声
今日は、書かない。
……書かないけれど、数えるだけ数えてみる。

部長はペンを置いたまま、頭の中で二つの列を作った。手放したものと、増えたもの。

大野部長
心の声
手放したのは、連結パッケージの確認の一部、
精算表を一人で開くこと、
「調」の列の理由を一人で覚えておくこと。
大野部長
心の声
増えたのは、抜き取りの10件、
事前相談で話す古い直し方の二つ、
ハルカさんの整理表とメモを読む時間。
それに、空いた席を見ること。
手放したもの と 増えたもの(部長の頭の中・10月25日)手放したもの 3増えたもの 4(全部「見る」仕事)・連結パッケージの確認の一部(→ハルカ)・精算表を一人で開くこと・「調」の列の理由を一人で覚えておくこと・抜き取り10件(読み取りの例外)・事前相談で話す、古い直し方二つ(850・620)・ハルカの整理表と照合メモを読む時間・ハルカの空いた席(配分)を見ること焼く仕事は減り、見る仕事が増えた。重くなった分の半分は、前からあった重さが見えるようになっただけ数だけなら、重くなっている。
大野部長
心の声
手放したのは三つ。
増えたのは四つ。
数だけなら、重くなっている。
大野部長
心の声
連結を、また一人で回そうか。
そうすれば、ハルカさんは毎日読み合わせに座れる。
抜き取りも減らせる。
大野部長
心の声
……それは、焼き直すことだ。
大野部長
心の声
増えた四つは、全部「見る」仕事だ。
「焼く」仕事は、減っている。
大野部長
心の声
マスターは三年と言った。
私は、まだ一週目だ。
軽くなっていないのは、当たり前なのかもしれない。
大野部長
心の声
それに、850も620も、一人で回していたら、
今年も見つからなかった。
重くなった分の半分は、前から抱えていた重さが、
見えるようになっただけだ。
大野部長
心の声
昨日、ハルカさんは外れた予想を、外れたと書いた。
私は、外れた名前を、何年も書き続けていた。
大野部長
心の声
来週の事前相談で、二つの古い直し方を、自分の口で言う。
それも、見えるようになった重さの方だ。

部長はペンを取った。仕事の行は書かない。日曜に書いてよいのは、仕事ではない一行だけ。

手帳の一番下の一行。「焼くのは一人分減って、見るのは二人分になる」。

結び

日曜日の終わりまだ、軽くならない

手帳焼くのは一人分減って、見るのは二人分になる明日、10月26日。事前相談の週が始まる。

日曜日が終わる。
手帳には、先週の十三行と、今週の一行があった。

任せた分だけ、楽になったか。
今週の答えは、「まだ、ならない」だった。
ただ、重さの種類は変わった。
一人で抱えて見えなかった重さから、二人で見て、見えるようになった重さへ。

連結は、一人に戻さない。
空いた席を見るのは、席を決める自分の仕事にする。

手帳の一行(10月25日・日):焼くのは一人分減って、見るのは二人分になる

任せた最初の年は、軽くならない。
焼くのは一人分減って、見るのは二人分になる。

明日、10月26日。
中間の確定と、監査法人との事前相談の週が始まる。

次の話へ持ち越したこと
  • 中間連結の確定 ── 10月26日(月)の物流の再送を受けてから。「調」の2行目620は三つで一組で反映(第16話)
  • 監査法人との事前相談(来週=10月26日の週) ── 850(前々期からの二重計上)と620(前期以前の表示)を部長が自分の口で説明。読み取りの仕分け(24件・25件)と例外も
  • 連結の二人目(ハルカ)は午後、読み合わせは毎日午前1時間 ── 部長は連結を一人に戻さない。空いた席(配分)を見るのは部長
  • 抜き取り10件(読み取りの例外)── 部長
  • 換算シートの見直しの依頼(海外販売子会社)── 来週(10月26日の週)、部長から
第17話 おわり次の話:第18話(近日)
学び

この話の学びと、マスターの言葉

大野部長の反省と学び
1任せた最初は、かえって仕事が増えることもある
手放したものより、増えたものの方が多かった。でも増えたのは全部「見る」仕事で、「焼く」仕事は減っている。重さを数だけで測らない。
2重くなった分の半分は、見えるようになった重さ
850も620も、一人で回していたら今年も見つからなかった。任せて増えた重さの半分は、前から抱えていた重さが見えるようになっただけ。
3空いた席を見るのは、席を決める人
連結の横にハルカさんを座らせた四日間、読み合わせの席が空いているのを見ていなかった。盤の上だけでなく、誰がどこに座っているかを見るのは、配分する側の仕事。
マスターの言葉(駅裏の喫茶店から)
1焼くのは一人分減って、見るのは二人分になる
任せた最初の年は、焼き上がりを毎回飲んだ。楽にならなかった。毎回飲まなくてよくなったのは、三年目。
2焼き直したら、また一人に戻るだけ
自分で焼いたほうが早い日も何度もあった。焼き直す代わりに、飲んで「今日のは少し浅い」と言った。
3見るものが増えないのは、任せたふりのとき
任せた分、見るものが増えたなら、ちゃんと任せている。会社のことは聞かないけれど、それだけは言える。
PART 2学ぶ世界へ・前後の話
→

この話に出てきた知識・前後の話

この話に出てきた知識(学ぶ世界へ)
経理財務部の物語|第17話|2026年10月25日(日)
前の話:第16話(10月24日)|端数と呼んでいた数字 / 次の話:第18話(近日) / 記録ページ(年表・会社のいま・話数一覧) / ハルカの学習ノート(リース会計ラボの章)

この物語は、上場企業の経理財務部の実務をモデルにしたフィクションです。登場する会社・人物・団体は架空のもので、特定の監査法人・企業・製品の手続や見解を描くものではありません。会計・税務の記述は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。数字はすべて架空です。

このテーマで、まだ知りたいことはありませんか?
他社事例、自社の場合の迷い、追加で見たいデータなどを教えてください。多くの実務家に共通する課題は、データ・記事・ツールの形で調査し公開します。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

TaxJudge編集部|公認会計士・税理士(実務25年)による企画・監修。会計基準・税法・裁決・有価証券報告書などの一次情報をもとに、検索できるデータベースと計算・判定・文書作成ツールを制作しています。