給与所得と退職所得 ── 何を引いて、どう課税する?
「給与750万円の所得はいくら?」「退職金300万円に税金はかかる?」に、給与所得控除と退職所得控除で答えられるようになる回です。
📘 用語表と、この講座の読み方(クリックで開く)
| 給与所得 | 給料・賞与・各種手当など、勤め先から働いた対価として受けるものの所得 |
| 給与所得控除 | 会社員の「必要経費のかわり」。仕事のための支出を1つずつ証明しなくてよいように、給与の収入金額に応じて法律で決まった額を経費とみなして引く。実際の支出(レシート)とは関係ない |
| 給与所得控除後の給与等の金額の表 | 一定額未満の給与について、給与所得を求めるための国税庁の表(所得税法別表第五) |
| 退職所得 | 退職により一時に受ける退職手当(退職金)などの所得 |
| 退職所得控除 | 勤続年数に応じて退職金から引く額 |
| 分離課税 | ほかの所得と合計せず、その所得だけで税額を計算する方式(第3回) |
| 退職所得の受給に関する申告書 | 退職金を受け取る人が勤め先に出す書類。出すと、原則として源泉徴収で精算が終わる |
| 合計所得金額 | 配偶者控除などの判定に使う所得の合計。退職所得も含む(第11回) |
| 年分と数字 | この講座は令和8年分の法令で計算しています。控除額などの数字は改正で変わることがあり、改正のたびに差し替えます |
はじめに:今日のゴール
給与所得=給与の収入−給与所得控除、退職所得=(退職金−退職所得控除)×1/2。そして退職所得はほかの所得と合計しない(分離課税)――この3つを、図を見ながら自分の言葉で説明できるようになること。令和8年分は給与所得控除の最低保障額が引き上げられたことも知っておきます。
※ 金額は令和8年分の法令で計算した学習用の試算です。青山家の数字は学習用に設定した仮定の数値です。
図で見る:給与所得と退職所得の5ステップ
STEP1〜5の会話をまとめて読む(文字だけ)
STEP 1 給与所得とは
パート収入(給料・賞与・手当など) = 給与の収入金額 100万円
STEP 2 給与所得控除
給与所得控除 = 74万円(収入 100万円 に応じて決まる)
STEP 3 給与所得を出す
100万円 − 給与所得控除 74万円 = 給与所得 26万円
STEP 4 退職所得の計算
(1,700万円 − 退職所得控除 1,500万円)× 1/2 = 退職所得 100万円
STEP 5 分離課税と源泉徴収
退職所得 100万円 → 源泉徴収 51,050円(申告書あり)/ 3,471,400円(申告書なし)
青山家で確かめる(講座の共通事例)
健太さんは会社員、妻の彩さんは3月末に勤続8年で退職し、退職金を受け取りました(その後は働いていません)。2人の給与と退職金を、今日の計算で確かめます。
| 人 | 収入 | 引くもの | 所得 |
|---|---|---|---|
| 健太 | 給与 750万円 | 給与所得控除 185万円 | 給与所得 565万円 |
| 彩 | 給与(1〜3月)90万円 | 給与所得控除 74万円 | 給与所得 16万円 |
| 彩 | 退職金 300万円(勤続8年) | 退職所得控除 320万円 | 退職所得 0円 |
※ 彩さんは「退職所得の受給に関する申告書」を勤め先に出しています。退職所得が0円なので、退職金からの源泉徴収はありません。
※ 彩さんの給与所得と退職所得は、健太さんの配偶者控除の判定(第11回)に使います。
やってみよう:彩さんの勤続年数を変えると?
彩さんの退職金300万円はそのままで、勤続年数だけを動かしてみましょう。退職所得は分離課税ですが、合計所得金額には入ります。健太さんの配偶者控除はどうなるでしょう。
※ 勤続5年以下の退職金(短期退職手当等)は、控除後の残りが一定の額を超えると、超えた部分に1/2が使えない例外があります。彩さんの退職金300万円は、勤続5年以下でもこの例外にかからない金額なので、そのまま1/2で計算しています。
※ 配偶者控除・配偶者特別控除のくわしい仕組みは第11回で扱います。
令和8年分の数字(この回で使ったもの)
| 項目 | 令和8年分 | メモ |
|---|---|---|
| 給与所得控除の最低保障額 | 74万円 | 令和8年分に引上げ |
| 給与所得控除の上限 | 195万円 | 収入850万円超 |
| 所得金額調整控除(23歳未満の扶養親族・特別障害者がいる場合など) | 収入850万円超 | 名前だけ |
| 退職所得控除(勤続20年まで) | 1年あたり40万円 | 最低80万円 |
| 退職所得控除(勤続20年超の部分) | 1年あたり70万円 | |
| 申告書を出さない場合の源泉徴収 | 20.42% | 確定申告で精算 |
控除額などの数字は、税制改正で変わることがあります。この講座では年分ごとの数字を1か所で管理し、改正のときに差し替えます。
よくある間違い
① 給与所得控除をレシートで計算する
給与所得控除は、給与の収入金額に応じて法律で決まっている額です。スーツ代などを集めて引くものではありません。② 退職金を給与と合計する
退職所得は分離課税。給与所得などと合計せず、退職所得だけで税額を出します。ただし、配偶者控除などの判定に使う合計所得金額には入ります。③ 退職金から給与所得控除を引く
退職金から引くのは退職所得控除(勤続年数で決まる)です。さらに、残りを原則として2分の1にします。ミニテスト(3問)
おわりに ── 今日のふりかえり
- 給与所得には、給料だけでなく賞与や各種手当も入る。
- 給与所得=収入−給与所得控除。給与所得控除は会社員の必要経費のかわりで、収入に応じて法律で決まり、最低保障と上限がある。
- 一定額未満の給与は国税庁の表で、それ以上は計算式で給与所得を出す。
- 退職所得=(退職金−退職所得控除)×1/2。退職所得控除は勤続年数で決まる(勤続5年以下などには例外あり)。
- 退職所得は分離課税。申告書を出せば、原則として源泉徴収で精算が終わる。合計所得金額には入る。
参照条文・出典
参照条文:所得税法28条(給与所得)、30条(退職所得)、別表第五(給与所得控除後の給与等の金額)、199条・201条(退職所得の源泉徴収)、203条(退職所得の受給に関する申告書)、租税特別措置法29条の4(令和8・9年分の給与所得控除の最低控除額等の特例)、41条の3の3(所得金額調整控除)
参考資料:税務大学校『所得税法(基礎編)令和8年度版』第3章第2節5・6(pp.21〜22)、第4章第1節5・6(pp.29〜34)、第7章第2節4(p.148)の【設例】(講本PDF)/国税庁『令和8年分 年末調整のしかた』p.3(給与所得控除の最低保障額の引上げ)
本教材は、上記講本を参考に、TaxJudgeが独自に構成・解説したものです。「シンプルな例」の退職金(1,700万円・勤続30年)は講本 p.148 の【設例】の数値を用い、TaxJudgeが図解・試算用に加工しています(公共データ利用規約(第1.0版)に基づく加工)。講本の基準日は令和8年1月1日で、その後の令和8年度税制改正(給与所得控除の最低保障額の引上げ等)は国税庁の上記資料で反映しています。
本教材は国税庁による監修・保証を受けたものではありません。令和8年分の法令に基づく学習用の試算であり、個別の申告には税理士等にご確認ください。青山家の数字は学習用に設定した仮定の数値です。