必要経費・減価償却・青色申告 ── 「引ける経費」を正しく積み上げる
「仕事で使ったお金は、全部その年の経費?」に、5つのステップの図で答えられるようになる回です。
📘 用語表と、この講座の読み方(クリックで開く)
| 必要経費 | 売上原価や、収入を得るために直接かかった費用、その年に生じた販売費・一般管理費など。現金で払った額ではなく、その年に支払う債務が確定した額で計算する |
| 家事関連費 | 店舗兼住宅の家賃や、仕事と生活の両方で使う水道光熱費など。仕事に必要な部分を明らかに区分できれば、その部分だけ必要経費になる |
| 減価償却 | 建物・機械・器具など、使ったり時間がたったりして価値が減る資産の取得価額を、耐用年数にわたって少しずつ必要経費にすること |
| 耐用年数・償却率 | 資産の種類ごとに省令で決められた「使える年数」と、それに応じた率。定額法では、毎年の償却費=取得価額×償却率 |
| 青色申告 | 税務署長の承認を受け、帳簿をつけて申告するしくみ。青色申告特別控除などの特典がある |
| 青色事業専従者給与 | 青色申告者が、事業を手伝う生計を一にする家族に払う適正な給与。届け出た範囲で必要経費になる(この講座では名前だけ) |
| 年分と数字 | この講座は令和8年分の法令で計算しています。控除額などの数字は改正で変わることがあり、改正のたびに差し替えます |
はじめに:今日のゴール
必要経費になる支出・ならない支出の線引き、生活と兼ねる家事関連費の分け方、資産を買ったときの減価償却(定額法)、青色申告の特典を、自分の言葉で説明できるようになること。
※ 第5回で見た由紀さんの料理教室の数字を、今日は「中身」から確かめます。由紀さんの数字は学習用に設定した仮定の数値で、令和8年分の法令で計算しています。
図で見る:必要経費から青色申告までの5ステップ
STEP1〜5の会話をまとめて読む(文字だけ)
STEP 1 必要経費とは
料理教室の必要経費:材料費 95万円 + 教室の家賃 84万円 + 水道光熱費 18万円 + 広告宣伝費 15万円 + 通信費・消耗品費など 36万円 + 償却費 12万円 = 260万円
STEP 2 家事関連費
由紀さんは按分なし(たとえ:自宅の家賃 144万円 × 20% = 28万8,000円)
STEP 3 減価償却
業務用オーブンの償却費 = 60万円 × 0.200 = 12万円
STEP 4 青色申告の特典
青色(正規の簿記+e-Taxなど):青色申告特別控除 65万円
STEP 5 事業所得
事業所得 = 600万円 − 260万円 − 65万円 = 275万円
由紀さんの経費の中身(講座の共通事例)
由紀さん(41歳)は料理教室を開いている個人事業主で、青色申告をしてe-Taxで申告しています。第5回で見た料理教室の必要経費 260万円 の内訳は、次のとおりです。
※ 業務用オーブンは取得価額 60万円、耐用年数を5年とした設定です(定額法・1年分)。マンションの建物(2,000万円)の減価償却費 44万円 は、料理教室ではなく不動産所得の必要経費です。青山家の数字は学習用に設定した仮定の数値です。
由紀さんの5ステップ
| ステップ | 由紀さんの場合 | 結果 |
|---|---|---|
| ① 必要経費になる支出 | 材料費・教室の家賃・水道光熱費・広告宣伝費・通信費など(生活費は入れない) | 248万円 |
| ② 家事関連費 | 教室は自宅とは別に借りているので、按分するものはない | 0円 |
| ③ 減価償却 | 業務用オーブン 60万円(耐用年数5年・定額法) | 12万円 |
| ④ 青色申告の特典 | 正規の簿記+e-Taxで申告 → 青色申告特別控除 | 65万円 |
| ⑤ 事業所得 | 600万円 − 260万円 − 65万円 | 275万円 |
やってみよう:減価償却費は毎年いくら?
取得価額と耐用年数、使い始めた月を動かして、定額法の毎年の償却費と、年末に残る金額(未償却残高)の動きを見てみましょう。
※ 平成19年4月1日以後に取得した資産の定額法で計算しています。償却率は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の定額法の率です。最後は1円(備忘価額)を残します。中小事業者の少額減価償却資産の特例(その年に全額を必要経費にする特例)は、この試算に含めていません。
令和8年分の数字(この回で使ったもの)
| 項目 | 令和8年分 | くわしくは |
|---|---|---|
| 少額の減価償却資産(取得価額がこれ未満なら、その年に全額必要経費) | 10万円 | ステップ③ |
| 一括償却資産(取得価額がこれ未満なら、選択で3年間で均等に必要経費) | 20万円 | ステップ③ |
| 中小事業者の少額減価償却資産の特例(一定の青色申告者。令和8年4月1日以後の取得。それより前は30万円未満) | 40万円未満(合計年300万円まで) | ステップ③ |
| 青色申告特別控除(正規の簿記+e-Taxでの申告など) | 最高 65万円 | ステップ④ |
| 青色申告特別控除(正規の簿記+期限内の申告) | 最高 55万円 | ステップ④ |
| 青色申告特別控除(上の2つ以外の青色申告者) | 最高 10万円 | ステップ④ |
控除額などの数字は、税制改正で変わることがあります。この講座では年分ごとの数字を1か所で管理し、改正のときに差し替えます。耐用年数・償却率は省令の表によります。「収入を得るための費用を積み上げる」「資産は耐用年数にわたって経費にする」という仕組みは変わりません。
よくある間違い
① 買った年に全部経費にする
取得価額が一定額以上の器具や建物は、減価償却で耐用年数にわたって少しずつ必要経費にします。買った年に全額を経費にできるのは、原則として少額の資産などに限られます。② 減価償却はしてもしなくてもいい
所得税では、償却費は必ず必要経費に入れる決まりです(強制償却)。「今年は利益が少ないから来年に回す」ことはできません。③ 青色申告なら誰でも最高額の控除
青色申告特別控除の額は、帳簿のつけ方や申告のしかたで変わります。控除前の所得(黒字)が上限で、赤字を増やすことはできません。ミニテスト(3問)
おわりに ── 今日のふりかえり
- 必要経費は、売上原価や、収入を得るために必要な費用。その年に支払う債務が確定した額で計算する。生活費・所得税や住民税・罰金などは必要経費にならない。
- 生活と仕事の両方にかかる家事関連費は、仕事に必要な部分を明らかに区分できれば、その部分だけ必要経費になる。
- 器具や建物などの資産は減価償却で耐用年数にわたって経費にする。定額法は「取得価額×償却率」(年の途中からなら月数で按分)。少額の資産には特別な扱いがある。
- 減価償却は任意ではなく、必ず必要経費に入れる。
- 青色申告をすると、青色申告特別控除(最高65万円)、青色事業専従者給与、純損失の繰越し(第10回)などの特典がある。
参照条文・出典
参照条文:所得税法37条(必要経費)、45条(家事関連費等の必要経費不算入等)、49条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)、57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)、所得税法施行令96条(家事関連費)、120条の2(減価償却資産の償却の方法)、138条(少額の減価償却資産)、139条(一括償却資産)、減価償却資産の耐用年数等に関する省令、租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)、28条の2(中小事業者の少額減価償却資産)
参考資料:税務大学校『所得税法(基礎編)令和8年度版』第4章第5節1「必要経費」(p.60)・2「必要経費とされない支出」(pp.61〜62)・4(p.65)・5「減価償却資産の償却費の計算」(pp.66〜73)・11(pp.84〜86)・12「青色申告特別控除」(pp.86〜87)(講本PDF)
本教材は、上記講本を参考に、TaxJudgeが独自に構成・解説したものです。定率法・中古資産の耐用年数・資本的支出と修繕費・繰延資産などは扱っていません。
本教材は国税庁による監修・保証を受けたものではありません。令和8年分の法令に基づく学習用の試算であり、個別の申告には税理士等にご確認ください。青山家の数字は学習用に設定した仮定の数値です。