損益通算と損失の繰越控除 ── 赤字をほかの所得と相殺する
「マンションの赤字は、料理教室の黒字から引ける?」に、5つのステップの図で答えられるようになる回です。
📘 用語表と、この講座の読み方(クリックで開く)
| 損益通算 | ある所得の赤字(損失)を、ほかの所得の黒字から差し引くこと |
| 総所得金額 | 総合課税の所得を、損益通算したあとに合計した金額(長期譲渡所得と一時所得は2分の1にして足す)。所得控除を引く出発点 |
| 純損失 | 損益通算をしても引ききれずに残った赤字 |
| 損失の繰越控除 | 純損失などを翌年以後に繰り越して、その年の所得から差し引くこと |
| 分離課税 | ほかの所得と合計せずに、別に税額を計算する課税のしかた(土地・建物や株式の譲渡など。第3回・第8回) |
| 年分と数字 | この講座は令和8年分の法令で計算しています。繰越期間などの数字は改正で変わることがあり、改正のたびに差し替えます |
はじめに:今日のゴール
赤字をほかの所得の黒字と相殺する損益通算のしくみ(相殺できる赤字は原則として4つの所得だけ)と、相殺しても残る赤字を翌年以後に回す損失の繰越控除の入口を、自分の言葉で説明できるようになること。
※ マンションの赤字は▲29万円ですが、そのうち土地を買うための借入金の利子に対応する15万円は、相殺できません(ステップ3)。由紀さんの数字は学習用に設定した仮定の数値で、令和8年分の法令で計算しています。
図で見る:損益通算と繰越控除の5ステップ
STEP1〜5の会話をまとめて読む(文字だけ)
STEP 1 損益通算とは
事業所得 275万円 / 不動産所得 ▲29万円 → 赤字を黒字から差し引く
STEP 2 通算できる4つ
相殺できる赤字:不動産・事業・山林・譲渡(原則) / 不動産所得 ○
STEP 3 不動産の制限
不動産所得 ▲29万円 のうち 土地の利子 15万円 は相殺できない → ▲14万円
STEP 4 総所得金額
総所得金額 = 275万円 − 14万円 = 261万円
STEP 5 繰越控除
純損失はない → 繰り越す赤字はない
健太さんと由紀さんの所得(ここまでのまとめ)
第4回から第7回で出した、青山家の2人の所得です。今日は、これを1つの金額(総所得金額)にまとめます。
| 人 | 所得(出てきた回) | 金額 |
|---|---|---|
| 健太さん | 給与所得(第4回) | 565万円 |
| 雑所得:ブログの広告収入(第6回) | 45万円 | |
| 一時所得:生命保険の満期保険金(第7回) | 10万円 | |
| 株式の譲渡益:申告不要を選んだので、ここには入れない(第8回) | (30万円) | |
| 由紀さん | 事業所得:料理教室(第5回) | 275万円 |
| 不動産所得:マンション1室(第5回) | ▲29万円 | |
| うち、土地を買うための借入金の利子に対応する部分 | 15万円 |
※ 由紀さんのマンションは、土地・建物とも借入金で購入した設定です(借入金の利子45万円のうち、土地の分が15万円)。青山家の数字は学習用に設定した仮定の数値です。
2人の5ステップ
| ステップ | 由紀さん | 健太さん |
|---|---|---|
| ① 損益通算とは | マンションが赤字 → 料理教室の黒字と相殺する | 赤字の所得はない |
| ② 通算できる4つ | 不動産所得の赤字 → 4つのうちの1つ | (確認だけ) |
| ③ 不動産の制限 | ▲29万円のうち土地の利子15万円は相殺できない → ▲14万円 | 不動産所得はない |
| ④ 総所得金額 | 275万円+(▲14万円)=261万円 | 565万円+45万円+10万円×1/2=615万円 |
| ⑤ 繰越控除 | 純損失はない(相殺できなかった15万円も繰り越せない) | 純損失はない |
やってみよう:この赤字は通算できる?
8枚のカードで、赤字(損失)を給与所得などほかの所得の黒字と相殺できるかを選んでみましょう。選ぶと理由が出ます。
※ 入門向けに原則だけで判定しています。居住用財産の譲渡損失の特例など、例外は応用講座で扱います。
令和8年分の数字(この回で使ったもの)
| 項目 | 令和8年分 | くわしくは |
|---|---|---|
| 純損失の繰越控除(青色申告者は純損失の全部) | 翌年以後3年間 | ステップ5 |
| 特定非常災害による損失の繰越控除(一定の要件を満たす損失) | 翌年以後5年間 | 応用 |
| 損益通算できる赤字(しくみ) | 不動産・事業・山林・譲渡 | ステップ2 |
繰越期間などの数字は、税制改正で変わることがあります。この講座では年分ごとの数字を1か所で管理し、改正のときに差し替えます。「4つの所得の赤字を、ほかの所得の黒字と相殺する」という仕組みは変わりません。
よくある間違い
① 副業の赤字で給与の税金が減る
副業が雑所得なら、その赤字は給与所得と損益通算できません。損益通算できるのは、原則として不動産・事業・山林・譲渡の4つの所得の赤字です。② 相殺できなかった赤字も繰り越せる
土地を買うための借入金の利子に対応する部分など、損益通算の対象にならない赤字はなかったものとされ、翌年以後への繰り越しもできません。③ 純損失は誰でも繰り越せる
純損失の全部を繰り越せるのは青色申告者です。白色申告者は、災害で事業用の資産に生じた損失などに限られます。どちらも、毎年続けて確定申告書を出すことが条件です。ミニテスト(3問)
おわりに ── 今日のふりかえり
- 損益通算は、ある所得の赤字を、ほかの所得の黒字から差し引くこと。
- 相殺できるのは、原則として不動産・事業・山林・譲渡の4つの所得の赤字。雑所得の赤字や、分離課税の土地・建物・株式の損失は、原則として相殺できない。
- 不動産所得の赤字のうち、土地を買うための借入金の利子に対応する部分は相殺できない(繰り越しもできない)。
- 損益通算したあとの合計が総所得金額。一時所得などは、ここで2分の1にする。健太さんは615万円、由紀さんは261万円。
- それでも残る赤字が純損失。青色申告なら翌年以後3年間繰り越して、翌年以後の所得から差し引ける。
参照条文・出典
参照条文:所得税法2条1項25号(純損失の金額)、22条(課税標準)、69条(損益通算)、70条(純損失の繰越控除)、70条の2(特定非常災害に係る純損失の繰越控除)、所得税法施行令198条(損益通算の順序)・200条(生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等)・201条(純損失の繰越控除)、租税特別措置法41条の4(不動産所得に係る損益通算の特例)
参考資料:税務大学校『所得税法(基礎編)令和8年度版』第4章第2節「所得税の課税標準」(pp.41〜43)、第4章第7節「損益通算及び損失の繰越控除」(pp.89〜92)(講本PDF)
本教材は、上記講本を参考に、TaxJudgeが独自に構成・解説したものです。損益通算の順序(経常所得のグループと譲渡・一時所得のグループ)は入門向けに簡略化し、山林所得・退職所得との通算、民法組合や国外中古建物の損失の制限、純損失の繰戻し還付は扱っていません。
本教材は国税庁による監修・保証を受けたものではありません。令和8年分の法令に基づく学習用の試算であり、個別の申告には税理士等にご確認ください。青山家の数字は学習用に設定した仮定の数値です。