朝15分の説明
2026年10月29日、木曜。
事前相談の当日。
午前9時、ハルカが席に着くと、机の付箋の横に、一枚の表が置いてあった。
「事前相談 当日の進め方」。
部長の字の書き込みが、余白にいくつか残っていた。
代休は休めたかな。
読み合わせの前に、15分だけもらうね。
……付箋、ありがとうございました。
冒頭で一度だけ、私の古い直し方が二つあることを言う。
そのあと850、新リースと読み取り、最後に620だ。
自分たちの指摘の話を、最後に聞かせたくない。
時間が足りなければ、書面で続きを聞ける。
月曜に、私は850と620を「最後に、
その他で」と言いかけた。
部長は、同じ二つを、理由をつけて別々の場所に置いた。
冒頭で部長が謝るとき、私は何を記録すればいいですか。
主査が何を言ったかと、私たちの宿題を書いてくれるかな。
「決まった」とは書かない。
決めるのは、こちらだから。
三つに分けて書きます。
私が数字を言い間違えたり、詰まったりしたら、
数字だけ手元に寄せてくれると助かる。
ハルカさんには、言った数字が正しいかを見ていてほしい。
言った数字が正しいかを見る。
……それなら、私にもできる。
9時15分から、ハルカと2年目の部員は、いつもの一時間で契約を4件読んだ。二人で読む24件のうち、残りは13件になった。
午後2時推移表の「買掛金」
午後2時。
会議室に、監査法人の主査と、もう一人の担当者が来た。
部長は冒頭で、事項が三つ増えたこと、そのうち二つは自分が過去に行った連結の処理であることを、一度だけ言った。
主査は短くうなずき、メモを取った。
ハルカのノートには、何も書かなかった。
部長に言われたとおりだった。
2時5分、850の説明が始まった。
主査は、前々期の指摘事項一覧を自分たちでも確かめてきたと言った。
部長が配った調整仕訳の推移表を、主査は一行ずつ指でなぞった。
利益剰余金が850過小になっています。
当中間では、連結上の補正を取り消しました。
主査の指が、推移表の「買掛金」の欄で止まった。
主査は、850の扱いの話とは別に、一つ確かめたいことがある、と言った。広告代理店への未払を、なぜ買掛金に含めて表示しているのか。
仕入の取引から生じた債務と、それ以外の未払は、分けて表示するのが一般的だ。重要性も含めて、御社で一度整理してほしい。主査はそう言って、ペンを置いた。
買掛金。
金曜のメモにも、追補にも、
私は「当社グループは買掛金に含めて表示」と書いた。
そういうものだと思って。
いつからそうしているか、私も今は答えられません。
経緯から調べて、ご報告します。
14:30 850終了(予定15分→実際25分)
話は850の重要性に戻った。主査は、当社が挙げた観点(金額・影響する項目・続いた期間)を一つずつ確かめた。前期の扱いをどうするかは、当社の判断を待つ。ただ、半期報告書の提出の前には、考え方を聞かせてほしい。
そのうえで主査は、別の話として、この連結修正が残っていた原因も整理してほしいと言った。同じような修正が、ほかにも残っていないか。
850の扱いを決めることと、なぜ誤りが起きたのかを調べること。主査は、その二つを分けて話した。
時計は、2時30分を指していた。
850の予定は15分。
もう25分たっている。
午後2時30分13件
新リースは、No.7の倉庫、No.6の管理費、
No.8の覚書の三つを先にお伺いします。
書面で続きをお伺いしてもよろしいでしょうか。
主査は、書面で構わないと言った。620の上限の考え方は、送られてきたメモで読んだ。数え終わったら、結果を送ってほしい。
昨日、部長が書いた「時間が足りないときは、
620を書面で」。
その一行が、そのまま使われた。
倉庫は、12月の経営会議を待つことを主査も了解した。判断の材料の一覧に、足りない観点はないと言った。管理費は、貸主に照会した結果を記録として残してほしい。覚書は、同じ時期に同じ相手と結んだか、内容が一体かを、一件ずつ書いておくように。
2時50分。部長は、読み取りの進捗に移った。
一人で読む25件は、
私が10件を抜き取って読み直しています。
17件。
……昨日のメモの数字だ。
今朝4件読んで、13件になっている。
言ったほうがいいのか。
主査の前で、部長の数字を直すのは、失礼じゃないか。
あとで議事メモで直せば、誰も困らないかもしれない。
……でも、主査が「17件」とメモしたら、
そのまま向こうの記録に残る。
ハルカは、ノートの端に「13件(今朝4件)」と書いて、ちぎらずにノートごと、部長の手元へ少しだけ寄せた。
今朝4件読みましたので、残りは13件です。
主査は、手元のメモの数字を一つ書き換えた。それから、抜き取りの10件をどう選んだのかを、書面で残しておいてほしいと言った。誤りが出た種類を二人で読む側に戻す決まりも、手順の文書に書いておくように。
3時ちょうど、主査は、今日の意見はあくまで現時点のものだと添えて、席を立った。
夕方意見と、宿題と
850が25分。
新リースは三つしか聞けなかった。
何を残して何を書面に回すか、迷っていなかったです。
理由があると、崩れたときに、どこを削ればいいかが分かる。
……あれで、少し楽になったよ。
一度でいい、と自分で決めておいてよかった。
推移表から目を離しませんでした。
話をまとめたくなる気がしてね。
買掛金の話は時間切れで出なかったかもしれない。
私も追補に「買掛金に含めて表示」と書きました。
そういうものだと思っていました。
誰がいつ決めたのか、私も知らない。
直すかどうかは、それからだ。
そういうものだと思っていた。
火曜に、海外の担当者のメールで読んだ言葉と、同じだ。
17件を、13件に直してくれて。
議事メモで直せば済むかもしれない、とも思いました。
あの場で直せてよかった。
言い間違えたのは私だ。
朝、数字だけ寄せてと言ってもらっていなかったら、たぶん、
黙っていました。
じゃあ、朝の15分は、私のためにもなったんだね。
主査の意見と、私たちの宿題を、混ぜずに書いてね。
①850の重要性と前期の扱い(半期報告書の提出の前まで)
②850が残った原因と、ほかに残っている連結修正がないか
③未払の表示区分の経緯
④抜き取りの選び方と結果の記録
⑤書面で続ける三つ
⑥管理費の貸主照会と、覚書の一体性の記録
表示区分の経緯は、ハルカさんにお願いしてもいいかな。
固定資産担当にも、昔のことを聞いてみて。
二人で「調」の列をもう一度、全部見よう。
写しを作ったときの分け方が使えるはずだ。
いつから「買掛金」なのか、探してみます。
議事メモ黒い字と、赤い字
午後6時半。
議事メモ(第1版)は、部長の確認の欄に名前が入って、部内の共有フォルダに置かれた。
主査には、書面で続ける三つの項目と、抜き取りの選び方を、翌週中に送ることになった。
帰り際、部長は時間割の紙を、自分の手帳に挟んだ。
予定の黒い字と、実際の赤い字が、並んでいた。
時間割は崩れても、順番の理由は残る。
崩れたとき、どこを削るかを教えてくれる。
- 850の前期分 ── 主査の意見:当社の重要性の観点を確認。扱いは当社の判断(半期報告書の提出前に考え方を伝える)。案は部長
- 850が残った原因 ── 主査の意見:850の扱いとは分けて、連結修正が残った原因と、同様の修正がほかに残っていないかを整理。部長とハルカで「調」の列を全部見直す
- 未払の表示区分 ── 主査の一言:広告代理店への未払を買掛金に含めて表示している点を、重要性も含めて整理してほしい。経緯の調査はハルカ(固定資産担当にも確認)。直すかどうかは経緯を見てから
- 書面で続ける3項目 ── 新リース No.2(経過措置)・No.9(網羅性)と 620(上限の考え方)。翌週中に送付
- 読み取り ── 二人で読む残り13件(累計42件)。抜き取り10件の選び方と結果を書面で残し、誤りが出た種類を戻す決まりを手順の文書に
- 新リース ── No.7 倉庫は12月の経営会議を待つ(主査も了解)。No.6 は貸主照会の結果を記録。No.8 は覚書ごとに一体かを記載
- 前々期・3期前の620 ── 伝票で算定(部長・二箱・11月6日まで)
この話の、二人の反省と学び
監査法人との事前相談 議事メモ(第1版) 全文木曜の夕方、ハルカが記録から起こし、部長が確認した議事メモ
この物語の会社(架空)で、事前相談の当日に、記録を担当したハルカがノートから起こし、大野部長が確認した議事メモです。主査の「意見」と、当社の「宿題」と、当社が「決めたこと」を分けて書いています。前日に決めた時間割と、実際の時刻も残しました。実在の会社・監査法人の文書ではありません。ひな形として使うときは、自社の論点に合わせてください。
新リース会計基準の適用等に関する監査法人との事前相談 議事メモ 第1版
2 B 850(前々期の未払の補正の二重計上)と表示区分
3 新リース(第1版の伺う事項)
4 A 契約の読み取り
5 C 620(換算差の表示区分)
6 当社の宿題
7 この場で当社が決めたこと
変更履歴
1 時間割(予定と実際)
| 事項 | 予定 | 実際 | メモ |
|---|---|---|---|
| 冒頭 | 14:00〜05(5分) | 14:00〜05 | 事項が三つ増えたこと・うち二つは経理財務部長の過去の処理であること・時間の配分を説明 |
| B 850 | 14:05〜20(15分) | 14:05〜30(25分) | 表示区分(買掛金)の論点が加わった |
| 新リース No.7・6・8 | 14:20〜50(30分・5項目+A) | 14:30〜50(20分) | その場で配分を組み替え、3項目に絞った |
| A 読み取り | (上に含む) | 14:50〜15:00 | 進捗の件数をその場で訂正(17件→13件) |
| 新リース No.2・9/C 620 | (上に含む)/14:50〜15:00 | 書面で継続 | 主査の了解を得て、翌週中に書面で送る |
2 B 850(前々期の未払の補正の二重計上)と表示区分
- 当社の説明:前々期末に指摘を受けて連結上で追加計上した未払850が、前期から子会社の月次計上と二重になっていた。期間別の影響(調整仕訳の推移表)。当中間で連結上の補正を取消し。前期分の扱いは未決
- 主査の意見(現時点):前々期の指摘事項一覧は監査法人側でも確認した。重要性の検討について、当社が挙げた観点(金額・影響する項目・続いた期間)を確認した
- 主査の意見(現時点・850の扱いとは別に):この連結修正が残っていた原因を整理し、同様の連結修正がほかに残っていないかを確認してほしい(誤りの扱いを決めることと、誤りが生じた原因を調べることを分けて検討する)
- 主査の意見(現時点):前期の扱いは当社の判断を待つ。半期報告書の提出前に、当社の考え方を聞きたい
- 主査の意見(現時点・別論点):広告代理店への未払を買掛金に含めて表示している点について。仕入の取引から生じた債務とそれ以外の未払は分けて表示するのが一般的であり、重要性も含めて当社で整理してほしい
- 当社の応答:表示区分の経緯(いつから・なぜ)は、その場では答えられなかった。調べて報告する
3 新リース(第1版の伺う事項)
- No.7(倉庫のリース期間):12月上旬の経営会議の結論を待って判断する当社の進め方について、主査は了解。判断の材料の一覧に、不足している観点はないとの意見
- No.6(リースを構成しない部分):管理費・共益費を貸主への照会で配分する場合、照会の結果を記録として残してほしい(意見)
- No.8(造作等の覚書):賃貸借契約と一体として検討するかは、締結の時期・相手・内容のつながりを、覚書ごとに記載してほしい(意見)
- No.2(経過措置)・No.9(契約の網羅性):時間の都合で、書面で続ける(主査の了解あり)
4 A 契約の読み取り
- 当社の説明:重要4項目を二人で読み合わせた契約は累計42件。二人で読む残りは13件(説明の途中で「17件」と述べ、その場で訂正)。一人読みの25件から経理財務部長が10件を抜き取って読み直している(5件済み)
- 主査の意見(現時点):抜き取りの10件をどのように選んだかと、その結果を書面で残してほしい。誤りが出た種類の契約を二人で読む側に戻す決まりを、手順の文書に明記してほしい
5 C 620(換算差の表示区分)
- 当社の追補(上限の見積りと調査の要否)は主査が事前に読んでいる。当日は時間の都合で説明せず、書面で続ける(主査の了解あり)
- 前々期・3期前の伝票による算定(11月6日まで)が終わったら、結果を送る
6 当社の宿題
| No | 当社の宿題 | 担当 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 1 | 850の前期分:重要性の判断と扱いの案。主査に考え方を伝える | 経理財務部長 | 半期報告書の提出前 |
| 2 | 850が残った原因の整理と、同様の連結修正がほかに残っていないかの確認(精算表の「調」の列を全件見直す) | 経理財務部長・ハルカ | 11月第2週 |
| 3 | 未払の表示区分:広告代理店への未払を買掛金に含めている経緯(いつから・なぜ)を調べ、金額と重要性を整理。直すかどうかはその後 | ハルカ(固定資産担当に確認) | 11月第1週 |
| 4 | 抜き取り10件の選び方と結果を書面化。誤りが出た種類を戻す決まりを手順の文書に追記 | 経理財務部長 | 11月第1週 |
| 5 | 書面で続ける3項目(新リース No.2・No.9、620の上限の考え方)を送付 | 経理財務部長 | 翌週中 |
| 6 | 覚書ごとの一体性の記載(No.8)・貸主照会の記録(No.6) | ハルカ | 調査票の回答(11月中旬)まで |
7 この場で当社が決めたこと
- その場で、時間の配分を組み替えた(新リースは No.7・6・8 に絞り、No.2・9 と 620 は書面で続ける)。主査の了解あり
- 上記のほかに、この場で当社が決めた会計処理・表示はない
この話に出てきた知識・前後の話
- 過去の誤謬の訂正と比較情報(重要性・修正再表示) ── 有報注記ナビ(会計方針の変更・誤謬の訂正)
- 監査法人への事前相談 ── 決めた考え方と根拠を見てもらう ── リース会計ラボ【部長編①】
- グループ内の債権債務と、科目の見え方 ── 内部取引消去ラボ【基礎編】
- 更新の条件とリース期間(合理的に確実か) ── ハルカの学習ノート ── 設例・リース期間編
- 判断基準書・論点整理(会計方針の文書化) ── 会計方針書ジェネレーターβ
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この物語は、上場企業の経理財務部の実務をモデルにしたフィクションです。登場する会社・人物・団体は架空のもので、特定の監査法人・企業・製品の手続や見解を描くものではありません。会計・税務の記述は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。数字はすべて架空です。
